「まだ、『面会謝絶中』？」
「想像以上に喧しかったもんでな」
　久方ぶりの施療院。世話になっていた数日間。
　たまには静かに過ごせるかとプラス思考になってみたものの、まぁ、過ごせるわけが無かった。

　ぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽす。
「……開けないの？」
「面会謝絶中ですから」
　頭から布団をかぶった男が、疎ましげに言うのを、苦笑がちに眺めて。
　同居人の男は、それ以上何を言うでもなく、黙った。
　ぽすぽす。扉を叩く音は、やまない。
　いつまで、そうしているつもりなのだろう、と。布団の中で眉を寄せる。
「うるさい」
「自業自得」
「……うるさい」
　拒絶をしたい訳ではないけれど。
　考えることが、多かったから。
　あけて、と。繰り返す声と音が聞こえなくなるまで、眠ったふりをしていた。

「お陰様で寝不足だから」
「なんだかんだ結構寝てたくせに」
「寝るから」
「はいはい、静かにしてますよーだ」
　くすくすと笑った同居人がのんびりと自室に戻るのを見届けてから、男もまた自分の部屋へ戻る。
　寝ると言ったけれど、ベッドは、素通りして。
　そっと窓を押しやって、暗がりの中に身を投じた。
「行ってらっしゃい」
　隣室から、人の気配が消えるのを待って。
　ゆうるり、男は呟いた。