報告ごと、一つ。
同居の彼らが知らないとは思っていないけれど、だからこそ、きちんと告げた。
ら。
「で？」
自分なりの吉報に対して、随分酷い言葉だと思った。

「え……えー……？」
「えー、じゃねーよ。聞いてんじゃねーか」
「いや、あの、だから付き合う事に、なって……」
「だから、で？　って。あんた別に俺に祝ってほしいわけじゃねーだろ」
　ごもっとも。口元だけで呟いて、むぅ、と少しだけ頬を膨らませた。
「祝ってくれても、良いんだよ……？」
「むしろあんたの方が、その前に言うことあるんじゃね？」
「……長い間ご迷惑をおかけしました……」
　ゆるゆると頭を下げて、黒いテーブルにぺたりと額をつけてから、ちらり、見やる。
　興味のなさそうな顔は既に背けられている。
「お互い様だとは思ってるけど」
「……じゃぁ、君もその時は謝ってくれるの？」
「その時って何の時？」
「ごめんなさいもう言いません」
　最近、笑う事が増えた彼は、怒っている時にこそ綺麗に綺麗に笑うのを覚えたようで。
　思わず目を逸らしてから、体を起こして、代わりに頬杖をついた。
「迷惑、かけたと思ってるから」
　だから。
「正直、義務感なんじゃないかって、思ってる」
　返答は、無い。視線もどこかへやられているから、独り言の気分で、続ける。
「酷い裏切りなんじゃないかって、思ってる」
　――だから。
「嘘で、良いよ。そうじゃないって、思わせて」
　見つめる視線に、間を置いて、間を置いて。
　溜息が、返って。
　ようやく戻ってきた視線が、身を乗り出して伸ばしてきた彼の掌に、遮られた。
「馬鹿も休み休み言え」
　少し乱暴に、撫でられて。ついでに額を強めに弾かれた。
「いたい」
「まずそもそも頼る相手が間違ってる」
「だって」
「あと誰がどう見てもあんたは昔から惚れてたから今更過ぎていっそむかつく」
「う……だから……」
「その今更でさらにうじうじ言い出してんのが腹立たしい」
「あの、キルフェさん、そろそろ勘弁……」
「今更、後に引ける気でいるのが心底うぜぇ」
　撫でた手で、襟元を掴んで、薄らと瞳を細めて。
「義務だとなら全うしろよ。裏切りじゃないと思いたいなら証明しろよ」
　しあわせに、すると。
　心に決めたのなら。
「今更、駄々こねてんじゃねーよ。この幸せ者が」
　言い切って、手を離した時には。真剣に見えた顔にはもう、興味らしいものが欠如していたけれど。
　しあわせもの、と。彼の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったから、ほんの少しだけ、むず痒くなった。
「……うん」
　そうする。
　小さく告げて、はにかめば。
　ちらりと向いた顔が、ほんの少しだけ、微笑んでいるように見えた気がした。




決めて、口にして、願っても。
かわんねーです。
まだ、一人じゃ立てない。