我が家の同居人は、良く酒を買ってくる。
飲めないのに。

「で、また殆ど飲まない内に潰れるわけね……」
　溜息交じりに、苦笑して。すぅすぅと寝息を立てている同居人の髪を撫でた。
　酒に付き合わされるのは、初めての事ではなかった。
　随分前に一度、突然部屋に尋ねてきたと思ったら、いう事が「酒に付き合え」で、驚いた記憶がある。
　飲めないんじゃなかったっけ、に対し、飲めねーよ？　と、さらりと返されて。さらに、「だから付き合えっつってんの」ときたものだから、意味が解らないと素直に告げた。
　だけれど、飲めない酒を無理やり飲んで、気を失うように眠ろうとすることは、以前から知っていたから。
　眠った後の事を任されているのだと認識すれば、信頼されているのだろうかと、思ってみたりもする。
　とはいえ、以前と違って寒い季節ではないから、毛布も要らないわけで。見守る事しかできないのだけれど。
　いつも不機嫌ややる気の無さを露骨に表している顔が、少し穏やかに見える。
　さらさらと流した髪は、毛先がまばら。鏡を見ることを嫌う同居人は、いつも、少し伸びた頃に適当に鋏を入れるだけ。短くするとそれがしにくくなると、言っていた気がする。
　ふと、首に見慣れない飾りがあるのを、見つける。
　細い革紐に、小さな星が三つ、横に連なったデザイン。
　いつから付けていたのかは、知らない。ネックレスだろうそれは、紐の部分が少し短いように思えた。
　違和感を、確かめるように手を伸ばして。そっと、継ぎ目を探る。首の後ろで括られたそれは、明らかに、鋭利な刃物で断ち切られた形跡があった。
「……聞かないけどさ」
　どこで、とか、誰に、とか。それはきっと、言いたくないだろうこと。
　自分にだって、そんな秘密ごとの一つや二つ、あるのだから。
「いつか、ちゃんと言いなよ」
　誰に、とは、言わないけれど。
　いつか、話せる相手が見つかればいいと思う。
　それまでは、酒でも、喧嘩でも、なんにでも付き合ってやろうと、思う。
　――そのいつかが来ることを、彼はきっと望んでいないのだろうけれど。