今年はいつもより冬が早いような。
そんな心地になるのは、雨と風を凌ぐ囲いが崩れるのを目の当たりにしたから。

古びた洋館。
少し大きな二階建ての建物。
豪奢とは少し違う、けれど質素とも言い難い、趣のある建物。
部屋の数は両手一杯より少し少ないくらい。
ラッドシティの郊外にぽつりと佇むそれは、静かな時間が多い。
一階の部屋二つは、黒い壁に白い家具を置いて。
二階の部屋二つは、白い壁に黒い家具を置いて。
それ以外の幾つかの部屋は、それぞれに、好き好きに。
個人の部屋には理由とお招きが無ければだれも立ち入る事はしないけれど。
それ以外の場所は、フリー。
両手の指の内、一つ。
ふんわりと温かくて、ふわふわのクッションに満たされた、ほの甘い香りのする部屋は、白が好み、設えた場所。
灰は、呼ばれれば赴く。
青は、何となく立ち入る事を控える。
そして黒は、白がいる時を狙い済まして、訪れる。
それを理解しているから、一人でクッションを抱え込む白は、のんびりとした表情を、黒に向ける。

お邪魔だったかしら。
んーん。そんなこともないけど。
けど？
けど……今日は、少し冷えるね。
そうね。
今年は、雪が沢山降るのかな。
誰かさんが辟易していたわ。
ふふ、移動に困るものね。
貴方は。
ん？
……貴方は、困らないの？
降ってみないと判んないよ。
降る前から、凍えた顔をしているくせに？
……だから、こうして温かい部屋にいるんじゃない。
湯たんぽは、無くしたの？
うん。
それで、今年の冬は、越せるの？
迎えてみないと判んないよ。
そう。

足元のクッション一つ、拾い上げて。
黒はやんわりと抱きしめて、微笑む。

貴方が望むのなら、幾らでも貸してあげるのに。
……やだよ。
あら、不服かしら。
不服だね。
何故？
知ってるくせに。
そうかしら。言葉にしてくれないと判らないわ。
……判ってるくせに。
……本当、意気地のない人。

囁いて、一つ、零した溜息。
それでも黒は、微笑む。
白が、満足げな顔をするから。

……さむい。
知らぬよ。
うん、ありがと。
……知らぬよ。