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TW3より飴(c05383)と花(c11349)の日記跡地。 現在の主な成分:頭の可哀相な背後。よその子ごめん。仮プレ。飴花の(背後に対する)不満。たまに遊びに来る喪(c08070)と石(c28018)。力関係はPC≧PL。
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「善良な貴族の当主を、その財目当てに取り入り、殺した賊の首領だと。そう言ったら、驚いてくれる?」

 努めて柔らかく、当たり障りのない笑みを湛えて。
 小首を傾げた問いに、彼女はどこか探るような目をしてから、夜風に揺れる木々の影に飛び込んだ。
 そうして振り返った瞳を見つめ返していると、何故だか、泣きたくなった。
 どうして、言ってしまったんだろう、なんて、後悔じみた思いと共に――。



+ + + + + + + + + +


 空が赤い。清々しい白色をしていた雲は、落ち行く陽にあてられて、鮮やかな橙色に染まっている。
 薄ら、瞳を細め、慈しむような眼差しで見つめていた青年は、手に提げた紙袋を胸元に引き寄せ抱え、くすりと笑みを零した。
「やぁ、すっかり遅くなってしまったな」
 かさりと音を立て、閉じられた袋の口が歪む。
 可愛らしい手書きのロゴが記されたそれは、今しがた、街を巡って手に入れてきたいわゆる戦利品。
 何と戦ったのかと問われれば……あえて言うなら、ささやかな羞恥心だろうか。
 ロゴに相応しく可愛らしい内装を施されたその店は、女性向けの、可愛らしい小物を扱っている店だった。当然、訪れるのは女性が大半である。
 男の自分が一人で訪れることは、普段ならばそうそうあるまい。
 ましてや、彼が目当てとしていたのは女性に贈るような小物の類ではなく。店の一角にこじんまりと設えられた、材料のコーナー。
 色とりどりの糸に鮮やかな布、きらきらとしたビーズや小洒落たレースなどが、きちんきちんと整えられたその場所で、一生懸命に悩む仕草を見せる青年は、どちらかといえば珍しい。
 とは、言え。彼自身はそれほど恥ずかしいとも思っていないし、店内に居る者らとて、彼を物珍しげに見ることはなかった。
 青年は、青年と称するにはいささか華奢であった。そしてその後ろ背には、女性の目にとて煌びやかに映える、美しい白髪が流されていた。服装こそ、男性のそれであるが、つやつやとした髪に惑わされてか、顔立ちは女性じみて見える。
 その容姿こそが、青年の存在を、店に馴染ませる要因となっていた。
 さすがに真正面から向かい合えば悟れる程度であるため、小さな籠に色々と詰め込んで会計へと運んだ折には、快活そうな少女の大きな瞳にまじまじと見つめられたが。
 それは、それ。無事に目当てのものを手に入れて、青年――クレルは意気揚々と帰路を辿っていた。
 向かう先は、大きな豪邸。残念ながら自分の家などではないそれは、雇い主の屋敷だ。
 自分を含めた数人の仲間と共に請け負った、護衛の仕事。かれこれ半年ばかり続けているが、特に大きな事件もなく、至って平和に過ごしていた。
 そもそもが平和な街だったのだ。しっかりとした自警団も組織されていて、事件らしい事件は街全体を見ても皆無。いつ何が起こるか判らないという緊張感は最初の三日で容易く費え、こうして仕事の合間に買い物などに出かける余裕さえも有り余っているこの仕事は、仲間内では金持ちのステータスとして受け止められていた。
 クレル自身も、初めの内はそのような認識で居たが、今では、そんなことは思っていない。
 理由があった。それは、この紙袋の中身とも深い関係のあるもの。
「奥様が気に入ってくれればいいけれど」
 ふふ、と、笑みを零したクレルが呟いた『奥様』とは、言わずもがな、屋敷の当主に当たる女性だ。
 女性といっても、すでに老女の域ではある。腰の曲がるほどではないが、足が弱く、杖を愛用している彼女は、早くに主人を亡くして以来、一人きりで家を支えてきた。
 不幸なことに、子には恵まれず、養子にとった息子夫婦も、娘を一人産んで後、流行病に侵されてこの世を去った。
 未だ成人に至らない娘は今年で十八と聞く。女ばかりが残されたこの家を護るべくと、老女は可愛い孫への数多の求婚を全て断り、才を積ませた娘自身に相手を選ばせる気で居た。
 クレルたち護衛の役目は、屋敷と老女を護ることではない。不埒な悪漢から理不尽な権力者まで、ありとあらゆる障害から、娘を、護ることだ。
 ――クレルだけが、老女にそれを聞かされていた。
 他の仲間は、家の境遇も、娘の将来も、自分たちの目的さえ、知らない。知らないまま、そこにいるのだ。
 何故彼らには話さない。一度だけ、クレルはそう尋ねた。すると老女は微笑んで言うのだ。知らなくていい。と。
 ならば何故、自分には話したのだ。続けて尋ねた問いにも、老女は笑みを湛えて言った。
『どうしてかしら』
 と。
 含みを持たせたような笑みは、けれど不思議と、クレルの疑問を取り払った。
 老女は愛する孫のため、残る人生の全てを費やすつもりなのだろう。そうして、彼女の立派な成長を見届けることを幸せとして、死んでいくつもりなのだろう。
 似たような存在を、クレルは知っていた。自分の、祖母だ。
 彼女は自警団の長として台頭し、我が子を含めた多くの戦士を育ててきた猛者であった。灰白色の大鎌を振るう姿は幼心に印象深く、彼女は決して朽ちることはないのだろうと、クレルはそう思っていた。
 けれどやはり、そんな彼女でさえ老いには敵わない。現場に出向く機会を減らし、長の立場を息子へと渡したその夜、彼女はクレルに大鎌を握らせて言ったのだ。
 これからはお前がこの子の主人だよ。と。それはクレルが七つの時だった。
 祖母の下でおよそ三年。彼女の元を離れて更に十年余り。立派と胸を張れる自信はないが、それなりに頑張っている成人男性と成長したクレルの手には、今なお、褪せることのない白の刃があった。
 そんな、自身の経緯があるからだろう。クレルは老婆に対し、自身の祖母と同じような思慕を抱いていた。
 老婆もまた、クレルのことを気にかけてくれていた。互いに顔を見れば声をかけ、談笑をして。時折小物作りなどを教わっては、互いに作ったものを見せ合ったりして。
『貴方が私の孫になってくれたらいいのに』
 ――いつぞや、ぽつりと零された言葉は、いつかの問いの答えでもあろう。
 けれど、その内にあるだろう本当の意味は、知らない振りだ。
 自分は所詮、雇われの身。老婆の全てを継ぐのは、彼女の、本当の孫娘の役目なのだから。
 くすり、と。不意に自身の口許で零れた笑みが、ほんの少し物憂げな装いをしていたことに気が付いて、クレルは思わず指先を宛がい、今度は自嘲に笑った。
「……急ごうか」
 くだらないことを考える時間を持つ前に。整備された石畳を、小走りに駆け出した。

 走った甲斐あってか、普段よりも早く辿り着いたが、赤く鮮やかな夕日はすっかり沈み、辺りは薄っすら闇に満たされていた。
 見上げた屋敷は、その闇に溶け込むかのように、薄暗い。
 薄暗く、感じた。
「……お休みに、なったのかな……」
 まだ、宵の時間だ。普段なら老女も娘も何かしらしていて、彼女等の部屋に明かりが灯っているはずだ。
 使用人も居るだろう。にも拘らず、屋敷の灯は、一つとてついてはいなかった。
 薄ら。細めた瞳に、警戒が宿る。クレルは足早に、けれど慎重に庭先の離れに向かうと、そこに置いてあった自らの武器を手に屋敷へと踵を返す。
 傭兵などと言うがさつな職を持つ男ばかり詰め込まれた離れには、それぞれの獲物が雑多に置かれているのが常だが、それさえも見当たらない。
 何かが起きているのは、火を見るより明らかだった。
「誰か、事情を知っている人に逢えればな……」
 言いつつも、クレルの足は真っ直ぐ、老女の部屋へと向かっていた。
 ――老女の言葉を聞いている身としては、向かう先は娘の部屋であるべきなのに。
 それでもクレルは、この異常時に向かう先として、老女の部屋を選んだ。
 選んで、しまったのだ――。
「奥様……?」
 きぃ。小さな音を立てて、大きな扉が開かれる。
 室内は暗かった。度々訪れている場所であるため、何処に何があるかは把握しているが、即座に踏み込むことには躊躇いを覚えた。
 血の匂いがする。
 それも、大量で新しい、酷く濃厚な血の匂いが。
 誰のものかと問うまでもあるまい。一番の可能性として挙がるのは、部屋の主たる老女。
 大鎌を握る手に力を篭め、意を決して室内に入った瞬間、ぽつり、部屋の片隅に、光が灯った。
「やっぱり、ここにきたのね」
 仄かで酷く頼りない灯りに照らし出されたのは、少女の姿。
 薄暗がりとて見紛うはずはない。屋敷の娘だ。
 クレルはその宝石色の瞳を見つめ、安堵したような息を吐く。
「お嬢様……ご無事で……」
 良かった、と。続くはずだった言葉が、途切れた。
 少女の顔は光に照らされていて、明瞭なはずなのに。半分だけ、闇に沈んでいた。
 影に当たるせいだろうか。思わず何度か瞬きをしてから、改めて見つめた少女は、けれどやはり顔の半分が不明瞭で。確かめるように視線を落とせば、彼女の好む青空色のドレスは、夥しいまでの血に染まっていて。
 闇に慣れ始めた目が、少女の足元にもう一人存在していることを、気づかせた。
「……奥、様……?」
 横たわっている、何か。
 それは人の姿をしていて、クレルの記憶にも焼き付いている、深い緑の纏に包まれているように、見える。
 けれど、それは決してクレルの知っている色をしてはいなかった。
 闇に慣れた目が、赤を映す。
 ぴくりともしない、深緑だった色を纏った人の形をしたそれを、少女の靴がが爪先で小突いた。
「どうして、こんなことになったのかしらね」
 静かな声。静かで、重い空気を孕んだ声。
 ぎこちなく視線を動かせば、緩やかに笑う少女の唇が、次第に鋭利な弧を描いていくのがよく判った。
「『貴方が私の孫になってくれたらいいのに』」
 くすくすと笑う少女の言葉に、クレルは目を剥いた。
「ふふ……ずるいわ。ずるいじゃない。私のものよ。私のものなのよ……クレル……」
「お嬢様、俺は……!」
 その言葉を受け入れるつもりなんてないのだと、告げるつもりで開いた口は、見つめられる瞳に、閉ざされる。
「クレル……」
「クレル、逃げろ! 自警団だ!」
 少女の言葉を掻き消すように、傭兵仲間の男が叫ぶ。
 はっとして外を見ると、武装した自警団が広い庭を横切っているところだった。
「逃げるって……」
「馬鹿、奥様殺したのは「誰」だよ。どう考えても部外者の俺らだろ!」
「ふふ、うふふふふ……」
 小さな、小さな笑い声は、それなのに喚く男の声より強く、クレルの耳に響く。
「そう、殺したの。殺したのよ。おばあ様は死んだのよ。クレル、ねぇクレル、貴方のせいよ」
「クレル!」
 腕を引かれた感覚が、いやに遠い。
 零れそうなほどに見開かれた瞳に映る少女の笑みが、脳裏に焼き付いて離れない。
「にがさない」
 去り際の言葉が、いつまでも耳に残っていた。
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プロフィール
HN:
飴と花
性別:
男性
自己紹介:
飴:キルフェ。不機嫌なお友達
花:ガルデニア。ピンクの似合うお友達。
喪娘と末子も背後は一緒。
あっち女子部屋、こっち男子部屋

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