花弁を指で摘んでは、言葉を添えてはらりひらり。
　すきと、きらいと。
　どうして、そんな二択なんだろう。

　なにしてんの。いつもの通りの不機嫌な声は真っ直ぐには投げられていない。
　視線が、少し下へ向いているのが気取れる、そんな声。
　そんな視線が見下ろす足元。色取り取り。
　花と、花と、花の片。
　占い。視線はくれずに応えて、また一片、指先で摘んだ。
　すきと、きらい。知ってるでしょう、と尋ねれば、やったことはねーけど。大体予想通りの返答。
　すき、きらい、すき、きらい。
　何が。
　さぁ、なんだろう。
　占いしてんじゃねーのかよ。呆れる声は、最近、よく聞くようになった音色。
　意味の判らないことを良くする男だと、そんな認識を持たれているような気がする。
　仕方が無いことだと思う。だって、自分にだって、良く判らない。
　何を思って、両手にだって余るほどの花を抱えてきて。
　何を思って、それを一つ一つ、引きちぎっているのか。
　占い。
　占い？
　すきも、きらいも、判らないのに。


「好き、だよ」
「だから、何が」
「占い？」
「……あ、そ」



　はらり。はらり。
　花弁は、かくも儚く散り積もっては。
　足元を、彩った。



「ねぇ」
「なに」
「知ってる？」
「なにが」
「庭園にね、花を植えたんだ」
「どこだよ」

　あれは、どこの庭だっただろうね。
　今なら、すぐにいける場所。

「綺麗に、咲いてるかなぁ」
「……咲いてんじゃねーの」
「だと、いいね」

　他人事かよ。悪態が、ため息と一緒にこぼれて。
　つられて漏れたのは、笑い声だった。

「ねぇ」

「なに」

　そっぽを向いたままの背中に、触れる。
　そろそろ、このコートもしまいこむ季節だろうか。

「……さむい」