TW3より飴(c05383)と花(c11349)の日記跡地。
現在の主な成分:頭の可哀相な背後。よその子ごめん。仮プレ。飴花の(背後に対する)不満。たまに遊びに来る喪(c08070)と石(c28018)。力関係はPC≧PL。
+ + + + + + + + + +
「はぁ?」
訝る感情を全面開放した、露骨なまでの呆れ声。
それを意に介そうともしないのは、にこにこと満面の笑みをたたえた婦人だった。
「だからね、そいつを売り歩いてきておくれって。ほら、シャルムーンデイがあるだろう? 西風通り辺りで売りまわれば、すぐに売れちまうさ」
「俺は運ぶ作業しかしねーよ。売るのはあんたの仕事だろうが」
「あたしは店で売るとも。だからあんたに頼んでるんじゃないか」
きっぱりと言い切られ、くら、と眩暈がした気がした。
最近ごく自然な癖じみてきた、額を押さえる所作で眩暈を気のせいと押し込めて、キルフェは婦人を――ラッドシティでの雇い主である菓子屋の店主を見た。
が。
「ほらほら、問答してる暇も惜しいんだよ。さっさと行っておいで」
文句を言おうとするのを察知されたのだろう、そうはさせまいといわんばかりに、強引に押しつけられた箱。
中には、甘い香りを漂わせるチョコレートの包みが大量に。
「あぁ、ついでだよ、これとこれもお願いね」
上積みされるのはチョコレートのケーキにチョコの練りこまれたクッキーの箱。
「ちょ……」
「じゃあ、任せたよ」
健闘を祈る。そんな台詞と共に、締め出された。
バタン、ガチャンと、素早く扉を閉めて鍵までかけた婦人の姿を恨めしげに思い起こして、一つ、盛大なため息をついた。
「あぁ、くそ……」
無茶振りにもほどがある。
どうにもこちらの扱い方は気取られているようだが、それにしたってこれはない。
どういう発想の転換をすれば、この短気で無愛想な男に甘い菓子の売り歩きが勤まるというのだろうか。
もう一度、今度は小さく息をついて諦めを過ぎらせると、仕方がないとばかりに、箱を抱えて、跳んだ。
「次行った時、眼科勧めてやる」
――あるいはそれが、彼女なりの祭を楽しんでこいという意思表示なのかもしれないという考えは、気がつかない振りをして。
結局、預けられた菓子類はいつものたまり場の敷物の上に広げてきた。
置いておけば、誰かが消費するだろう。
「あれ全部売ったら、幾らぐらいになんのかね……」
量と単価を鑑みて、思案する。立て替えるつもりではいるが、そんな単純な計算ごととは別に、よくもまぁそれだけの商品を自分なんかに預けたものだと皮肉な考えが過ぎったのだ。
だからあんたに頼んでるんじゃないか。
婦人が告げた言葉を思い出して、誰かの家の屋根の上で片膝を抱える。
女手一つで切り盛りしている小さな菓子店。たいした稼ぎも見込めないだろうに、仕事の場としてそこを選んだのは、猫の手も借りたいというほど忙しそうな彼女が、手伝うの単語に一も二もなく快諾したことが切欠だった。
家族は居ない。仕事一筋で居たら婚期を見事に逃したのだと、あっけらかんと笑った彼女の言葉が嘘であることは、薄々感じていた。
とはいえ。人のプライベートに首を突っ込むことなんて、端から性分ではなくて。ふぅん、と適当な相槌だけを返して、終わらせていた。
けれど、知っていた。
彼女が、貧困街の出身で、残してきた、今はもう居ない家族の代わりにするように、幼い子供たちに時折お菓子を配っているのを。
「……西風通り、ね……」
小さな袋に、さらに小さな小袋を幾つかだけ詰めて。
キルフェは再び、街を駆けた。
西風通りは彼女の告げたとおり、人で賑わっていた。それを横目に、トン、屋根を踏み出す。
人の気配が希薄になって幾らかしたころ。祭の賑わいとはまるで縁のない、質素な質素な建物郡が見えてきた。
通りかかったのは偶然で、記憶していたのはただの気まぐれ。
それでも迷うことなくたどり着いたのは、どこかで気にかけていたのかもしれない。
目的の路地に降り立てば、閑散とした空気の中に、じっと様子を伺うような気配が、幾つか見つかった。
見渡せば目の合う、一人の少年。
扉の影から覗き見て、訝るように眉をひそめた。
「お兄ちゃん、だあれ?」
彼なりの警戒なのだろう。しばし考えて、歩み寄ることはせずに、袋からチョコの入った袋を取り出して見せた。
「この辺に、たまに来る奴が居んだろ。菓子屋の女」
キルフェの言葉に、ぱちくりと、目を瞬かせた少年。ややあって頷きを返すと、扉の影からまた別の少年が姿を見せた。
「お兄ちゃん、おばちゃんの知り合い?」
「まぁ……似たようなもんか。そのおばちゃんの依頼で、これ届けにきただけだけど」
そこでようやく歩み寄り、彼らの手に包みを手渡していく。
子供ばかり寄り集まって、けれどそこは、生活している場所というより、遊び場に近い雰囲気を持っていた。
ここは、まだ、それだけの余裕がある場所なのだろう。
「チョコレート?」
「あ、判った、今日シャルムーンデイだからでしょ」
「私、あのお姫様の話、好きー」
お菓子を受け取り、口々にはしゃぐ子供らに、一瞬、微笑ましげに表情を緩めたキルフェだが、一人の少女の見上げてくる視線に、それも掻き消える。
「……なに」
「あのね、お兄ちゃん、運び屋さんなんでしょ?」
「まぁな」
適当な返事に、子供らは顔を寄せ合わせて頷き合い、部屋の奥から何かを引きずり出してきた。
「おばちゃんにねー、これ、届けて欲しいの」
二人がかりで広げたのは、お菓子を包んだ質素な布切れ。それを、幾つも幾つも集めては、縫い合わせた大きな布。
可愛い色合いですらないそれは、作品などとは到底呼べようもなかったけれど、それでも確かにパッチワークのブランケットだった。
「お金も、少しだけどちゃんとちゃんとあるから……」
懇願するような顔に返すには、我ながら冷めた視線だと思ったけれど。改めることもせずに、広げられた布を取り上げて丁寧に畳んだ。
「どうせ戻る場所だし。ついでだから持ってってやるよ」
チョコを出して空いた袋に詰めこみながらの言葉に、子供らは、ぱぁっと、嬉しそうな笑顔を見せた。
「……それ、大事に食えよな」
苦手な空気を察知して、早々に踵を返したが、そんな背を追いかけるように、彼らは声を張り上げる。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
随分と人の好いことをしているような気がして。
柄じゃない、と思いながらも、何故だか、懐かしいような気も、していた。
店に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。
そのころには、店舗の方も一段落していたようだ。、押し出された裏口の鍵を確かめるのも面倒で、正面から入ってやった。
ぽかんと驚いた顔の婦人を他所に、ショーケースの上に二つ、袋を置いた。
その内一つ、じゃら、と重厚な音を立てる麻袋の中身は、ギガンティアで稼いだ物品を換金したダルクだったりするが、そんなこととは露知らず、婦人は驚きに喜びを足した笑みを湛えた。
「なんだいなんだい、渋ってた割には上手くさばいてきたんじゃないかい。やっぱりあんたに頼んで良かったよ、なんせ黙って立ってりゃ男前だかんねぇ」
「あ、そ」
聞き流してますと言わんばかりの適当な返事に、婦人はからからと笑った。
きっと、なんだかんだと真面目に売りに行き、健気でいたいけな女子郡や微笑ましく初々しいカップルの相手をしていた姿辺りを想像をしているのだろう。
正直御免被りたいが、想像は自由だと言い聞かせた。
「褒めてんだから、ちょっとは嬉しそうな顔をすりゃぁいいじゃないか。ところで……こっちの袋はなんだい?」
くすくすと微笑ましげに笑っていた婦人が、代金の隣に置かれた袋を指して首を傾げる。
開ければ、と促せば、婦人は不思議そうに首を傾げて、それから、袋の中身に目を丸くした。
「あんた、これ……」
「それも代金」
だから、受け取れよ。
二の句は口にはせずに、さっさと立ち去った。
きっと、次に行くときまでには、彼女も感慨からは抜け出て、いつも通りの顔をしてくれるだろうと、祈るような期待を潜めて。
日が暮れる。恋人たちのシャルムーンデイはいよいよ本番なのだろうが、片づけをはじめる店を眺め見て、自分の中でのその日が終わるのを、感じていた。
訝る感情を全面開放した、露骨なまでの呆れ声。
それを意に介そうともしないのは、にこにこと満面の笑みをたたえた婦人だった。
「だからね、そいつを売り歩いてきておくれって。ほら、シャルムーンデイがあるだろう? 西風通り辺りで売りまわれば、すぐに売れちまうさ」
「俺は運ぶ作業しかしねーよ。売るのはあんたの仕事だろうが」
「あたしは店で売るとも。だからあんたに頼んでるんじゃないか」
きっぱりと言い切られ、くら、と眩暈がした気がした。
最近ごく自然な癖じみてきた、額を押さえる所作で眩暈を気のせいと押し込めて、キルフェは婦人を――ラッドシティでの雇い主である菓子屋の店主を見た。
が。
「ほらほら、問答してる暇も惜しいんだよ。さっさと行っておいで」
文句を言おうとするのを察知されたのだろう、そうはさせまいといわんばかりに、強引に押しつけられた箱。
中には、甘い香りを漂わせるチョコレートの包みが大量に。
「あぁ、ついでだよ、これとこれもお願いね」
上積みされるのはチョコレートのケーキにチョコの練りこまれたクッキーの箱。
「ちょ……」
「じゃあ、任せたよ」
健闘を祈る。そんな台詞と共に、締め出された。
バタン、ガチャンと、素早く扉を閉めて鍵までかけた婦人の姿を恨めしげに思い起こして、一つ、盛大なため息をついた。
「あぁ、くそ……」
無茶振りにもほどがある。
どうにもこちらの扱い方は気取られているようだが、それにしたってこれはない。
どういう発想の転換をすれば、この短気で無愛想な男に甘い菓子の売り歩きが勤まるというのだろうか。
もう一度、今度は小さく息をついて諦めを過ぎらせると、仕方がないとばかりに、箱を抱えて、跳んだ。
「次行った時、眼科勧めてやる」
――あるいはそれが、彼女なりの祭を楽しんでこいという意思表示なのかもしれないという考えは、気がつかない振りをして。
結局、預けられた菓子類はいつものたまり場の敷物の上に広げてきた。
置いておけば、誰かが消費するだろう。
「あれ全部売ったら、幾らぐらいになんのかね……」
量と単価を鑑みて、思案する。立て替えるつもりではいるが、そんな単純な計算ごととは別に、よくもまぁそれだけの商品を自分なんかに預けたものだと皮肉な考えが過ぎったのだ。
だからあんたに頼んでるんじゃないか。
婦人が告げた言葉を思い出して、誰かの家の屋根の上で片膝を抱える。
女手一つで切り盛りしている小さな菓子店。たいした稼ぎも見込めないだろうに、仕事の場としてそこを選んだのは、猫の手も借りたいというほど忙しそうな彼女が、手伝うの単語に一も二もなく快諾したことが切欠だった。
家族は居ない。仕事一筋で居たら婚期を見事に逃したのだと、あっけらかんと笑った彼女の言葉が嘘であることは、薄々感じていた。
とはいえ。人のプライベートに首を突っ込むことなんて、端から性分ではなくて。ふぅん、と適当な相槌だけを返して、終わらせていた。
けれど、知っていた。
彼女が、貧困街の出身で、残してきた、今はもう居ない家族の代わりにするように、幼い子供たちに時折お菓子を配っているのを。
「……西風通り、ね……」
小さな袋に、さらに小さな小袋を幾つかだけ詰めて。
キルフェは再び、街を駆けた。
西風通りは彼女の告げたとおり、人で賑わっていた。それを横目に、トン、屋根を踏み出す。
人の気配が希薄になって幾らかしたころ。祭の賑わいとはまるで縁のない、質素な質素な建物郡が見えてきた。
通りかかったのは偶然で、記憶していたのはただの気まぐれ。
それでも迷うことなくたどり着いたのは、どこかで気にかけていたのかもしれない。
目的の路地に降り立てば、閑散とした空気の中に、じっと様子を伺うような気配が、幾つか見つかった。
見渡せば目の合う、一人の少年。
扉の影から覗き見て、訝るように眉をひそめた。
「お兄ちゃん、だあれ?」
彼なりの警戒なのだろう。しばし考えて、歩み寄ることはせずに、袋からチョコの入った袋を取り出して見せた。
「この辺に、たまに来る奴が居んだろ。菓子屋の女」
キルフェの言葉に、ぱちくりと、目を瞬かせた少年。ややあって頷きを返すと、扉の影からまた別の少年が姿を見せた。
「お兄ちゃん、おばちゃんの知り合い?」
「まぁ……似たようなもんか。そのおばちゃんの依頼で、これ届けにきただけだけど」
そこでようやく歩み寄り、彼らの手に包みを手渡していく。
子供ばかり寄り集まって、けれどそこは、生活している場所というより、遊び場に近い雰囲気を持っていた。
ここは、まだ、それだけの余裕がある場所なのだろう。
「チョコレート?」
「あ、判った、今日シャルムーンデイだからでしょ」
「私、あのお姫様の話、好きー」
お菓子を受け取り、口々にはしゃぐ子供らに、一瞬、微笑ましげに表情を緩めたキルフェだが、一人の少女の見上げてくる視線に、それも掻き消える。
「……なに」
「あのね、お兄ちゃん、運び屋さんなんでしょ?」
「まぁな」
適当な返事に、子供らは顔を寄せ合わせて頷き合い、部屋の奥から何かを引きずり出してきた。
「おばちゃんにねー、これ、届けて欲しいの」
二人がかりで広げたのは、お菓子を包んだ質素な布切れ。それを、幾つも幾つも集めては、縫い合わせた大きな布。
可愛い色合いですらないそれは、作品などとは到底呼べようもなかったけれど、それでも確かにパッチワークのブランケットだった。
「お金も、少しだけどちゃんとちゃんとあるから……」
懇願するような顔に返すには、我ながら冷めた視線だと思ったけれど。改めることもせずに、広げられた布を取り上げて丁寧に畳んだ。
「どうせ戻る場所だし。ついでだから持ってってやるよ」
チョコを出して空いた袋に詰めこみながらの言葉に、子供らは、ぱぁっと、嬉しそうな笑顔を見せた。
「……それ、大事に食えよな」
苦手な空気を察知して、早々に踵を返したが、そんな背を追いかけるように、彼らは声を張り上げる。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
随分と人の好いことをしているような気がして。
柄じゃない、と思いながらも、何故だか、懐かしいような気も、していた。
店に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。
そのころには、店舗の方も一段落していたようだ。、押し出された裏口の鍵を確かめるのも面倒で、正面から入ってやった。
ぽかんと驚いた顔の婦人を他所に、ショーケースの上に二つ、袋を置いた。
その内一つ、じゃら、と重厚な音を立てる麻袋の中身は、ギガンティアで稼いだ物品を換金したダルクだったりするが、そんなこととは露知らず、婦人は驚きに喜びを足した笑みを湛えた。
「なんだいなんだい、渋ってた割には上手くさばいてきたんじゃないかい。やっぱりあんたに頼んで良かったよ、なんせ黙って立ってりゃ男前だかんねぇ」
「あ、そ」
聞き流してますと言わんばかりの適当な返事に、婦人はからからと笑った。
きっと、なんだかんだと真面目に売りに行き、健気でいたいけな女子郡や微笑ましく初々しいカップルの相手をしていた姿辺りを想像をしているのだろう。
正直御免被りたいが、想像は自由だと言い聞かせた。
「褒めてんだから、ちょっとは嬉しそうな顔をすりゃぁいいじゃないか。ところで……こっちの袋はなんだい?」
くすくすと微笑ましげに笑っていた婦人が、代金の隣に置かれた袋を指して首を傾げる。
開ければ、と促せば、婦人は不思議そうに首を傾げて、それから、袋の中身に目を丸くした。
「あんた、これ……」
「それも代金」
だから、受け取れよ。
二の句は口にはせずに、さっさと立ち去った。
きっと、次に行くときまでには、彼女も感慨からは抜け出て、いつも通りの顔をしてくれるだろうと、祈るような期待を潜めて。
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プロフィール
HN:
飴と花
性別:
男性
自己紹介:
飴:キルフェ。不機嫌なお友達
花:ガルデニア。ピンクの似合うお友達。
喪娘と末子も背後は一緒。
あっち女子部屋、こっち男子部屋
メッセ登録してみました。
出現率は低率の予感ですがお気軽に
mai-maieb@hotmail.co.jp
登録時にはメールも一緒に送ってくださると確実です
ブログ内のイラストは、株式会社トミーウォーカーの運営する『エンドブレイカー!』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
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