「なぁ、ちょっとこっち来てみろって!」
泥だらけの少年が、やや歩みの遅い男二人の袖を引く。
けぶるような雨にしっとりと濡れた空気をも晴れ晴れと爽快に変えるような笑みを湛え、はしゃぐ少年の様子が気になっているのか、少女はそわそわとしていた。
ふ、と小さく微笑ましげな笑みを零して、その傍らで小さな手を引いていた青年は、ぱしゃん、足元の水溜りを跳ね上げて、小走りに駆けた。
「見に行ってみようぜ」
「うん!」
ふわりと浮かべられた笑みに返るのは、嬉しそうな満面の笑顔。
連れだってとことこと追いかけてみれば、少年はずらり居並んだ紫陽花の木の一角で立ち止まり、何かを示すように指を指していた。
「ほら、これだろ、星型の花って」
そこにあったのは、この雨祭の誘いを切り出した誰かさんが、お世辞にも上手とは言えない絵で描き示した、星型の紫陽花。
絵を思い起こしたついでに酒場でのささやかなやり取りも思い出したらしく、仏頂面でそっぽを向いた連れを横目に、彼よりはずっと穏やかで、けれどそれまででしかない無表情の男は、珍しげに見つめた視線を、後ろからやってくる足音へと向ける。
「せっかくだ……君たちも見ておくといい」
「そういや、そんなものの話もしてたっけな。祈りとか思いが届きやすくなる……とか」
ふうん、と曖昧な呟きを添えつつ覗き込んだ青年を、ちらりと見上げて。少女はその視線を追いかけるように、花を見つめた。
いつの間にか固まって歩いているけれど、元々は、きっとそんなつもりは全くなくて。
何を目的にきていたのだろうと、ほんの少しだけ考えた。
「みんなは……」
ぴちゃん、と。紫陽花の葉を滑り降りた雨粒が足元の水溜りに溶け込む音がした。
滝の音が響いて、人の話し声が流れて。朝の早い時間とは言え、決して、静かとは言いきれない空間に生まれた音に、少女は一瞬黙った。
「うさぎちゃん?」
何かを言いかけたのに気が付いた青年が、尋ねたけれど。
「何でもない」
ごまかすような言葉でありながら、本心で、少女は笑った。
気にはなったけど、何でも良かった。一緒の時間がちょっとでも長く続くのなら、何でも。
にこにこと笑う少女を、見つめて、すぐにやめて。緩く視線を巡らせた男は、ふと思いついたように、歩き出す。
「いっぺん、休めば。まだ結構冷えるし」
どこ行くの、と一声かけようと顔を上げた少年が、言葉に促されるように見やった先には、茶屋があった。
普段は滅多と聞くこともないような気遣い含みの誘いに、思わず、隣の男と顔を見合わせて。けれど小さく笑った男が肩を竦めたのを合図にしたように、やはりはしゃいだ様子で追いかけ並んだ。
「奢り?」
「自腹に決まってんだろ」
突っぱねるような言葉だけれど、こつんと小突いてきた手には、許容する感覚があって。
へらりと笑って、少年は先と同じように、やや歩みの遅い袖を引いて、雨の道を歩いた。
訪れたのがばらばらなら、返るのも、ばらばらで。
茶屋で一休みした後、一人二人と立ち去る背中をぼんやりと眺めながら、屋根の下でぼんやりとしていた。
黎明は鮮やかに色を変え、高く昇ったのだろう日差しが、滝の向こうから柔らかな陽光として差し込んでくる頃になって。
男は思い出したように立ち上がり、帰路へと足を向けた。
祭と言うだけあって、朝早くから集まっていた人間は、その数を減らすことなく散策を楽しんでいる。
村の中へと向かう人の波を擦り抜けて、辿り着いた入り口で。
漆黒色の女を見かけた。
傍らにあどけない笑顔を湛えた少女を連れ、殊更幸せそうに笑う女。
横目にだけ、見て。目の合うこともなくすれ違った。
振り返ることもしないまま歩を進めれば、すぐに記憶から弾き出されて、それきり。
村を抜けて振り仰いだ『空』は、清々しく晴れ渡っていた。
描かれた『陽』は緩やかに傾き、辺りは夜の帳が下りる。
昼間の祭を堪能した人々が家路を急ぐのを見つめ、見つめ、見つめ。
その間を縫って歩み寄ってくる姿に、緩く手を振った。
「待たせてしまったかな」
「ぜーんぜん。うちが早ぉ来過ぎてるだけ」
ふわり、たおやかに笑む姿を見つめ、やはり緩やかな仕草で振り返る。
「もっと早ぉ来てる子ぉも、居るけどね」
暗がりの中に佇む草木。程よく手入れの施されたその影に、そっと隠れるように佇む少女の姿。
「あれ、あれ……いつから、気づいてたん?」
「さぁ、いつからやろ」
お互いにくすくすと笑いながら、少女を手招き、よし、と一つ頷いて。村を振り返った。
少しずつ闇を深くしていく街は、けれど人の賑わいに満たされ、明るい雰囲気が漂っている。
露天なんかが並んでいるのを横目に見やり、後であれを食べよう、あそこで休もうなどと話しながら、一行は目的地でもある広場へ続く丘を目指していた。
「あ……」
歩みを進めるほどに強くなる、梔子の濃密な香り。
少しずつ満ち満ちていくそれを楽しみながら進めば、やがて辿り着いたのは、緩やかな勾配の続く道と、その両端を煌々と彩るランプの群れ。
照らし出される梔子の花を見つければ、自然、笑みが零れた。
ぬかるむ足元を確かめるように足先で跳ね、差し出した手のひら。
快く伸ばし添えてくれた手は、霧のような雨に濡れてひんやりと冷たかったけれど、握り締めれば、自然と温まった。
遠くからかすかに響く歌姫の美声にひっそりと耳を傾けてから、傍らの温もりが語る声に聞き知れる。
きらきら、小さな光を纏いながら手の上で大人しく座る妖精を見つめ、ふと、思いついた悪戯心にこっそりと笑みを深めた。
「なぁ、あれ――」
それぞれに花や灯りを楽しんでいた視線を同じ場所に集めてから、くい、と手を引く。
後ろへ、やや思い切り良く。
「わ……」
「きゃ…っ」
ぬかるむ足元に、暗闇。宙へと逸らされた注意に悪戯な意思を添えれば、たちまち、ぐらりと傾ぐ体。
ぱしゃんっ、と少しばかり派手な音が、二つ、響いた。
「あはっ。怪我とか、しとらん?」
自分がけしかけたわけだが、流石に少女を転ばせるわけにもと思ったのだろう。華奢な体を抱きかかえながら道に転がる姿に、くるくると心配そうに周囲を回る妖精を宥めて体を起こした青年は、一度苦笑に肩を竦めた。
「これくらいで怪我なんてしないけれど……いきなりで、驚いたよ?」
「綺麗な着物、汚してもうたねぇ。ふふ、責任持って、綺麗にするよぉ」
驚いた、という言葉が嬉しかったのだろう。けらけらと可笑しそうに笑いながら、抱えていた少女に「ごめんね」と笑みを零して立ち上がらせる。
と。
「二人だけ、ずるい」
どこか拗ねたような少女の顔が、近づいて。ぎゅ、と抱きつかれたかと思えば、そのまま、引っ張られた。
「え、ちょ……」
ぱしゃん、と。もう一つ響いた、音。
先とは一転、少女に抱えられるような状態に、ぽかんと口が開いた。
「これでお揃いー」
ふふ、と嬉しそうに笑う少女の背は、泥だらけだったけれど。傍らでくすくすと微笑ましげに笑う青年と同じように、楽しそうな表情がそこにはあった。
けしかけた悪戯に悪戯を返され、参ったというように、笑って。
「また、一緒に遊ぼ」
願うように、囁いた。
返る笑顔と頷きに、安堵と喜びを覚えながら。
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あとがきで全てを台無しにすることに定評のあるまいさんです。←
思っていた以上にね、がっつり、がっつり、プレイング反映されてたのでまいさんの妄想で全力補完。←←
ガルさんとご一緒のせーねんさんはコメも許可もないけどやっちゃった!←←←
誰とは言ってない。誰とは言ってない。
前も言ったっけ。一応年齢やらで分類してるんだ、よ。
青年と少年の年齢が逆とか知らんけどな←
そんなわけで。とっても楽しかったです、雨祭。
本当一杯反映してもらっちゃった感じできゃあきゃあ。
廃屋チームなんて正に日常過ぎて悶えた。
うさたん、うさたん…!!
狐子ちゃんも何だかんだで廃屋男子なんだなって思ったよ。
廃屋男子はひねくれ者。←←
こう、うさたんがこんな時間がーって言った瞬間、思わず周りの顔を、目が合わないように(重要)見渡してる図が過ぎりました。
それを見上げてうさたんがにこにこしてそうな気がしたよ。
仲良しだな、お前等(*´艸`)
ガルさんサイドは図らずも魔法面子でお出かけになりましたね。
私別に庭園の方と混ざっても良いんじゃないかって思ってたんだよ?
うんまぁそれはそれとして。
両手に花だった!(くわっ
そんな花二人に泥つけさせる真似させてごめんなさいごめんなさいだって転んだら道連れってゆってたんだもん←←
何だかんだでさ、転ばないと思うんだよね。不注意では。
だったらさ、もううちのど外道が転ばせるしかないじゃない。
一緒に泥遊びきゃっきゃがしたかったんだよ。きっと。
てか妖精さん可愛すぎる。身近に妖精騎士なんて居ないからとってもときめいたんだじぇ(*ノノ)
また遊びにいこうねいこうね。
改めまして、お誘い乗っかってくださった皆様と、参加させていただいたシナリオのMS様、ありがとうございました。
わーわーわー。
まいさんめまいさんめ!
こういうのちょうやりたかったありがとう←
道連れですよ、ね(´ω`*)きゅん
いいないいな、愉しそう、泥まみれ万歳!
御二人様にめいっぱい感謝しつつ
また遊びに行きましょうねっ
リプレイでかなり満足してたんだけども、なんだこれによによする(*ノノ)
によによする!←←
何だかしわわせな気分になりました。
偶にはこんな穏やかなのもいい。
でも普段と変わらないのに普段より穏やかなのもむずむずする。雨は人を落ち着かせるね。ひーりんぐ効果ぱねえww
つーか、うさたんときつねたんのひーりんぐ効果ぱねえ(*ノノ)
かわいいよぎゅってしてだっこしたいよおおおお!きつねたんにもぎゅってして摩擦力で熱くなる位撫で撫でしたいよおおお!←←
こうやって私の嗜好が入って段々変態化する猫さんなのでした。
久しぶりの廃屋お出かけは楽しかった!
全員ではないけどみんなで行けて楽しかった(人*´v`)
まいたんはお誘いと、美味しい脳内補完をありがとー。おつかれさまー。
体調には気をつけろよノシ
しのたん>
もだごろもだごろ。でれれ。
きゃあきゃあ。まいさんです。まいさんです。
割と誰にでも勝手に何でもさせちゃうまいさんです。←
きゅんきゅんしてくれたらちょぉ本望(*ノノ)
私の願望ぎゅうぎゅうに詰めたよ!
ほのぼのリプレイ見た瞬間、やらねば!と使命感にかられたよ(`・ω・´)+←←
ふぇふぇ、どろどろきゃっきゃ。
とっても楽しかったよありがとうありがとう(*´v`)
またお誘いするよするよ。一緒に遊んでね!
エコたん>
なんかあれもこれもとだらだら書き連ねてたらこうなった←
本気でリプレイががっつり描写だったから、大分勝手に色々妄想したんだよ。
そんでなんかあれもry
エコたんがしわわせなら私もしわわせ(*ノノ)←
ふふり。雨のひーりんぐ効果ははんぱねぇんだぜ!
しとしと濡れてふやふやにふやけちゃうんだぜ!←
てかエコたんの嗜好ぶち込んだら猫さんが本気で変態になるじゃないか←←
だが猫さんに諌められながらエコたんがハッスルする分には構わんもっとやれ←←←
むふ。ご一緒してくれてありがたう。
リプもだけどまいさんは酒場で思いのほか和ませてもらったことがとってもくすぐったい思い出だよ(*ノノ)
またとーとつに遊びに行こうねって言うかも知れんがその時も宜しく!
まいさんはもちゃもちゃ食べることを学んだからもう負けない!
進化したんだぜ(`・ω・´)←そこはかとないフラグ化の予感
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花:ガルデニア。ピンクの似合うお友達。
喪娘と末子も背後は一緒。
あっち女子部屋、こっち男子部屋
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