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TW3より飴(c05383)と花(c11349)の日記跡地。 現在の主な成分:頭の可哀相な背後。よその子ごめん。仮プレ。飴花の(背後に対する)不満。たまに遊びに来る喪(c08070)と石(c28018)。力関係はPC≧PL。
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 いつもの感覚。何かに惹かれるようにして視線をやった先に、人の影。
 交わす視線。刹那によぎる、終焉。
 数週間後の不幸が瞳に映った。

+ + + + + + + + + +

「なぁ、ちょっといいか?」
 見ず知らずの他人に声をかけるのは、不得手ではなかった。こと、年の近いと思われる人間に対しては。
 人の良さそうな笑顔を浮かべ、振り返るのは少年。自分と同じだと仮定すれば、14、5歳といったところか。それにしては大人びて見える笑顔をしていた。年上であれば、とても失礼な思考ではあるけれど。
「僕? んーと、何か用かな」
「いや、特別なこっちゃねーんだけどな、ちっと道に迷っててな……あんた、この辺の人間だろ? 悪ぃんだけど、教えちゃくんねーか」
 困ったような表情で訪ねれば、相手は一瞬だけ苦笑し、それから、にこり、今度は、あどけない笑顔を見せた。
「実を言うと、僕も、来たばかりなんだけど……多分、平気だよ。これでも記憶力には自信あるから、場所によっては案内できるよ」
「そうか? ありがとな、宜しく頼むわ」
 にこり。同じように、笑みを湛えて。場所を告げれば、少年はほんの少しの時間だけ思案を浮かべた後、安心したような顔で踵を返した。
「そこなら判るよ。こっち」
 複雑に入り組んだ都市国家。上層に程近いこの場所では、青空こそ拝めないが、その清々しさに劣らぬ程度には良い治安を保っていた。窓と窓を繋ぐ洗濯紐で、はたはたと揺れているシーツ。ちらりと見上げれば、つい先ほど、同じようなものを飛び越えてきた記憶がよぎる。
 彼――キルフェがスカイランナーとして、運び屋の仕事を始めたのは、もう何年も前の話になる。
 生まれながらに他人のエンディングを見ることができるイノセントのルーツを持つ彼は、物心が付くまでは、ずっと、それを母一人のための能力として使ってきた。もっとも、正確なことを言えば、それは単なる自衛が多く、彼女のために切り替わったのは、それこそ、物心が付く頃だった。
 だが、キルフェに対する束縛ともいえる彼女の視線は、自分が順調に育つにつれて緩まり、今ではごく普通の母子の距離を築いていた。
 スカイランナーを志したのは、その頃からだ。特別な意識もなく他人の不幸を――まれに、幸福を――見ることのできる瞳を持つことの意味を、幼心に考えて。ただ単純に、自分の手で何かを救えるのであればという期待を抱いた。
 街中の状況を把握できるこの職は、そんな期待に対しては、まさにうってつけであったのだ。
 運び屋として人を見、街を覚え、時たま、こうして不運を見つけては声をかける。
 例えば、記憶の中にある人間を利用して、誰それに何々を渡してくれと頼んでみたり。例えば、怪我をした素振りで医療機関へ運ばせてみたり。
 例えば、知り尽くした街の中で、道に迷った風を装ったり。
 偶然を演じて、適当な理由を作って。見知らぬ他人が不幸に陥らぬよう、ただ、尽力した。
 ――この、少年と、逢うまでは。
「ほら、あそこ。看板が見えるでしょ?」
 指し示す指を追いかければ、建物の奥に揺れる看板が目に付いた。小洒落た文体で綴られている文字は、古めかしく年季の入った木片の上、少し掠れていた。老舗といえば聞こえのいい、古びた安宿だった。
「あぁ、意外と近かったんだな」
「みたいだね。ひょっとしたら、自力で見つけてたかもしれないね」
「かもな。悪かったな、時間取らせて」
 肩を竦めて苦笑して見せるが、罪悪感はない。そうして無駄とも言える時間を浪費させることがそもそもの目的だ。特別何かを退治するようなことをせずとも、こうして時間をずらすだけで救える命はいくらでもある。
 少年を例に挙げるなら、キルフェがこうしてつれまわしたことで、彼はこれから起こる事故に巻き込まれずに済む。
(こいつは、これでいいだろ……)
 少なくとも、自分が数週間前に見た終焉を回避することはできた。心の端に満足をよぎらせて、キルフェはそのまま、礼を告げて少年と別れた。
 別れる、はずだった。
「ねぇ、君さ、なんていうの?」
 立ち去る背中にかけられる声。離れた距離を詰めるように、小走りに駆け寄ってくる少年が、にこり、覗き込んでくる。
 何を訪ねられているのか、俄かに理解には至らず。きょとんとした顔をすれば、声を上げて笑われた。
「名前だよ、君の名前」
「あ、あぁ……キルフェだ」
 笑われた動揺に視線を泳がせ、少し照れたような顔で答えれば、少年は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「キルフェ、かぁ。いい名前だね」
「そう、か……?」
「うん、とても」
 名を褒められるのは初めてだった。社交辞令と言う擦れた言葉ぐらいは知っていたが、それを冷めた感情で受け止められるほど大人でもなく、純粋な嬉しさが、ほの温かく胸中を満たす。
 彼の嬉しそうな顔につられるように、ふと、微笑んでいた。
「ねぇ、また逢えるかな」
「さぁ、どうだろな……」
 また明日。そう言って別れた近所の子供との付き合いだって、ただ、父母を安心させるための義務でしかなかった。遊んでいる最中は楽しさを覚えないでもなかったが、根本では、家が近いがために必然的に顔を合わせるという程度で。
 偶然、出会っただけの存在と、再び見えることがあるなんて、思ってもいなかった。
「嫌だな、キルフェ。こういう時はこう言わなきゃ」
 くすり。少年が微笑んで、キルフェの手を取る。握手をするように繋いでから、添えるようにもう一方で包まれて。手のひらが、妙な熱を持った。
「また逢おうよ。きっと、この場所で」
 人付き合いは苦手ではなかった。
 見ず知らずの人間と関わるのは嫌いじゃなかった。
 それでも、自分は『エンドブレイカー』だから。その接触はただの事務で、刹那の邂逅でなければいけないと、思っていた。そうでなければ、いつかこの瞳に潰されてしまうような気がしていた。
 忘れることが前提なのに。その笑顔の眩しさを、忘れられる気がしなかった。
「な……名前……」
 ぽつり。と。囁くように告げるのが、精一杯だった。動揺や照れに、かぁ、と頬が熱くなるのを自覚していながら、目を逸らすこともできないまま。キルフェは、一度唇を噛み締めて後、尋ねた。
「名前、なんていうんだよ……」
 その質問を待っていたというように。少年は、にっこりと、微笑んで。
「シャルマン。僕の名前は、シャルマン・レーヴだよ」
 華やかで、眩しくて、温かい笑顔を持つ、少年。
 それが、キルフェが唯一、心を許した存在だった。
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飴と花
性別:
男性
自己紹介:
飴:キルフェ。不機嫌なお友達
花:ガルデニア。ピンクの似合うお友達。
喪娘と末子も背後は一緒。
あっち女子部屋、こっち男子部屋

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