普段良く通っている菓子屋では丁度新商品の試作が出来たとかでタダで貰った。
些細なことだが、だからこそ何気なく思ったのだ。今日は良い日だと。
だが、懐が暖まったことに満足を覚え、夕食を酒場辺りで取ろうと思い立ったのは、間違いだった。
いつもなら適当な屋台で手軽なものを買って、温かいそれを抱えながら駆ける道。
それを逸れて、たまに訪れる酒場への道程をのんびりと歩き出した、矢先だった。
騒がしい、声。どうも自分が向かっている酒場から聞こえてくるらしい。
喧嘩か、と、胸中で呟くが、踵を返すことはしなかった。思えばそれも間違いの内だった。大人しく別の店を探せばよかったのだ。
絡まれたら応戦すれば良いかと思案して、するり、路地裏を抜けて角を曲がった瞬間だった。
慌しく開いた扉。そこから飛び出してきた青年。
目が、合った。
途端、露骨に顔が引き攣るのを自覚した。
青年は一瞬だけ驚いた顔をしたようだったが、薄暗がりの中では正確な判別には至らず、気が付けば薄笑いを浮かべたいつもの顔が駆けてきた。
「いいとこで出てきてくれたな。後任せた」
「は?」
何が、と問いただす前に、半開きだった扉が蹴り開けられるやかましい音が、して。
柄の悪そうな酔っ払いが数人、飛び出してきた。
「っのガキ……! ただじゃすまさねぇぞ!」
きょろきょろと、苛立った顔で何かを探す数人の男の視線から逃れるように、今し方自分が出てきたばかりの路地に逃げ込んだ青年は、けれどそのまま立ち去ることはせず、ひょこり、路地から顔を覗かせて、集団を一瞥した。
「てめぇ! 逃げられると思ってんのか!」
巻き込まれた。
状況の把握は一瞬で出来た。つきりと痛みかけた額を緩く押さえ、じろ、と睨む視線を向けるが、青年は気づかぬ素振りで笑っている。
「あんた、武器は」
「飯食いに行くだけなのに持ち歩かねえよ」
「じゃあ星霊」
「あんな奴らに使うの、勿体ねえじゃん」
けたけたと音を立てて笑う喉を締め上げて地面に叩きつけてやりたい衝動が湧いた。
が、それは迫ってきた巨漢への蹴りに変換される。
襲い掛かってきた肉達磨を蹴りつければ、他の男達の殺気立った目がこちらへ向けられる。
「てめぇも仲間か!」
「仲間であってたまるか」
勘違いするな、不愉快だと言わんばかりに、跳躍から身を翻して回し蹴りを見舞い、腰に帯びていたトンファーを引き抜きざまに肘をくれてやる。
くるくる、馴染んだ獲物を手元で回しながら、ぐるりと見渡すように睨めつけ、きつく寄せた眉根に更に深い皺を刻む。
「手ぇ出したなぁ、そっちが先だからな」
彼らにとって不幸だったのは、この青年がらみで自分に喧嘩を売ってきたことに他ならないだろう。
――えげつない音が響くこと、数度。
普段より三割近く助長された苛立ちが、容赦なくトンファーを振るわせ、最後の一人を昏倒させた。
どさりと地に伏す音がして、数秒。すぅ、と吸い込んだ息を、そのまま盛大な溜息に換えると同時、路地で佇んでいた青年が再び顔を出して、足元に転がった男達をひょいひょいと避けながら歩み寄ってきた。
「容赦ねえなあ」
「巻き込んだのはあんただろうが」
暴れるというにはまるで足りないやりとりでは、苛立ちは収まりもしない。
天井は最早光を吐き切り、一日の終わりをありありと告げているけれど、これはギガンティアにでも行った方が賢明だろう。
折角良い一日を過ごしたと思ったのに。台無しだ。
と、二度目の溜息を吐きかけた刹那、開きっぱなしだった扉から、今度は小柄な女性が飛び出してきた。
「あのぉ……無事、ですか?」
きょろ、きょろと。男二人の顔をそれぞれ見やってから、そろりと足元に視線をやって、苦笑する。
「すみません、助かりました」
……さっぱり判らない。
状況の把握が出来ないまま、怪訝に眉を潜めていると、するり、肩に腕が回される感触。
「俺は何もしてねえけど、こいつが変わりに片付けてくれたぜ」
なおのこと判らない。
とりあえず腕は払っておくことにした。
疎ましげな様子を隠しもせずに払いのければ、彼もそれを予想していたのか、喉を鳴らしながらおどけてみせる。
くすくす、微笑ましげに笑う女性に、いよいよ本格的に頭痛がした。
「あの、良かったら今日の食事はご馳走させてください。あ……お二人とも、いつもの、で、大丈夫ですか?」
額を押さえかけた手を、下げて。改めて見やった女性は、そういえば覚えがあった。酒場の店員だ。
そしてふと思いついたように足元を見れば、転がっている男達も、酒場の常連だった。
酔って店員にちょっかいを出して煙たがられていた場面を、ようやく、思い出した。
ちらり、と。傍らの青年を見やる。
「……あんた、意外とフェミニストなのな」
言葉通り、心底意外そうな顔で告げれば、肩を竦められる。
そうして、ごまかすのに良く似た仕草で視線を背けて、店に戻る女性の背に声をかけた。
「なぁ、ちなみにいつものって、どんなメニュー?」
「コーヒーとパンケーキです」
「おやつかよ」
声を上げて笑う様に、驚きに沈められていた苛立ちが沸き立って。
じゃあこいつのは。問う――そう言い切るにはあまりに鋭利な――視線に気づいた女性は、くすり、慣れた装いで微笑ましげに笑う。
「サラダとスープです」
「普通だろ?」
続けられた声と共に視界に入った、どこか勝ち誇ったような笑みに。
とりあえずという理由で殴っても許されるような気がした。
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猫の日にやるはずで準備してたけど昨日は日付が変わる前に家に帰れなかったので挫折。
一日遅れに出してみる。←←
ザ・まいペース。ちょっとうまいことを言ったような気分である。←←←
前にやってた予定帳もどきがベース。
飴さんのご飯はいつだっておやつです。
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花:ガルデニア。ピンクの似合うお友達。
喪娘と末子も背後は一緒。
あっち女子部屋、こっち男子部屋
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