アクスヘイムを離れて七日。たどり着いた新しい都市は、なんとも息苦しい空間だと思った。
戒律とやらの存在がそうさせているのだろう。美しいはずの森の世界は、どこか薄暗く、鬱蒼としているようにも見える。
とは言え、暫くは厄介になるだろう場所。色々と把握しておいた方がいいことは多いだろうと、ぶらぶら、エルフヘイムのあちこちを散歩していた。
誰かさんが喜びそうな場所だと。思案したのは、一瞬。
緩く被りを振って、少し足早に進んだ最中に、見つけた。
酷く静かで殺風景な場所。
人の気配どころか、獣の類の気配すらも滲まない場所には、丁度、腰を落ち着けられるだけのものがあって。やれやれ。呟きながら、座ってみた。
見渡し、俯き、振り仰いで。座り心地と景色を確かめれば、案外と、悪くはない。
疲れた時に来てみようか。そう、思案して。そこを勝手に、自分の居場所と決めた。
――同じように都市を離れ、この地に来ているはずの見知った顔を捜すための、拠点にしてやろうとも。
そう、思いながら過ごした、数日。
無事に……難、無く、既知の存在を見つけ、雨風を凌げる場所を確保できた安堵に息をついた矢先に、それは唐突に紡がれた。
「この間一人で居た場所に、遊びに行ってもいいか?」
少し遠慮がちに尋ねた少女に、目が丸くなるのを自覚できた。
誰にも告げていない場所だった。偶然だったとして、見られていたことにも気づかないとは、随分と情けない話だ。
だが、不思議と、拒絶する感情は湧かず。肩を竦めて了承した。
何もないところだと言えば、彼女はそれでもいいと笑って。
本当に、何もないところでただのんびりと過ごしていた。
時折、別の溜り場で顔を合わせているらしい少女と戯れながら。
どこか冷たい風が舞い込んだのは、そんな折だった。
アクスヘイムに残った者らの功績が、いよいよ届き始めたのだ。
旅の行商から、少し遅れて合流した仲間から、あるいは、当人から。
理由はさまざまだっただろうが、自分の元に届いたのは、誰とも知らない口が紡いだ噂だった。
聞きたくもない名前が、いやに耳に付いた。
同じ噂か、違う出所か。真っ白な少女も、その名を聞きとめたらしい。
少し伏した瞳を携えて、とことこと、自分からやや離れた位置に、腰を下ろしに来た。
互いに何を言うでもなく。ただ、黙って座っていた。
仰ぎ見たのは、天井。空とは違うそれは、エルフヘイムの星霊術師が果てしない程の大昔に築き上げたものだろう。
何を、思って。同じものを見つめているのか。何故だか、理解できた。
「頑張ってる、みたいだな……」
「さぁな。当人に聞かねーと、判りゃしねーだろ」
「ふふ、それもそうか……」
浮かべる微笑はどこか大人しい。
社交的で、気が遣えて、大人びた雰囲気さえ漂う彼女は、それでも、やはり、少女なのだ。
ちらりと、一瞥だけした横顔。
遠くを見つめるような瞳の翳りを拭い去ることは、きっと、出来ないのだろう。
視線を逸らし、再び同じ場所を見上げた自分の中にも、何か疼くものがあった。
けれど、それは。傍らの少女と同じであるはずがないのだ。
物寂しい思いなんてあるはずもない。
そもそもが、そう好意的ではなかったのだ。
幸いにも、お互いに。
だから。だから、そんな顔をするのは、していいのは、彼女の権利だ。
酷く懐いていた彼女だからこそ、離れることを惜しめるのだ。
彼女が泣くなら自分は泣かない。
彼女が憂うなら自分は厭わない。
「まぁ、どーせ暇持て余して遊びに来るだろ」
例えばいつか彼が気まぐれに顔を見せるようなことがあるのなら。
きっと照れて躊躇うだろう彼女の背を小突いてやればいい。
慣れていた。
慣れないはずもなかった。
何年、耐えたと思っている。
再会を喜び合う姿でも見れば、きっと、この不愉快な疼きも収まるだろう。
過ぎった思いは、どこか祈りにも似ている様な気がした。
呆れるほどに、わらえる未練だ――。
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花:ガルデニア。ピンクの似合うお友達。
喪娘と末子も背後は一緒。
あっち女子部屋、こっち男子部屋
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