桜が散り行くさまは、ただ美しく、静かで。
　見上げた『空』を彩る闇色さえも吸い込んでいくよう。
　そんな静寂を掻き乱すわけではなく。
　けれど、それでいてはっきりと響き渡る旋律。
　聞き馴染んだそれに身を委ねれば、あぁ、扇の一つでも持ってくれば良かったと一瞬悔いて。
　けれどすぐに、そんな考えをも削ぎ落として、音色は四肢を導いた。

　永らくやっていなかった自炊とうものを久しぶりにやることにした。
　丁度時間もあったし、材料もあったし。
　切欠なんてそんなもので、結果だって「そんなもん」で済む予定だ。
　――予定、だった。

　長く伸びた影は細く。
　立ち並ぶ廃材の闇に紛れるようで、酷く儚く見えた。

　口にするのは気恥ずかしいけれど、一度くらいは、告げたかった。
　それを、どう受け止められるのかは、知らないけれど。
　少なくとも、好意以外の何物でもないことは、確かで。
　だから、だろうか。
　少しだけ、躊躇った。

　ついつい後を追いかけた。
　考えて考えて、声をかけるのは止めにしたけれど。